2022年自創作振り返り⑧『關東パキモン猟奇譚 三ツ重之鎌』編

執筆当時お世話になったサイトの旧字対照表。僕はこれと2年にわたりにらめっこし続けた

 

ようやくこれを振り返れる時が……

一昨年1月から某wikiにて断続的に更新し、昨年末にようやく完結することができました。が、後半以降露骨に更新ペースが落ちていたのは、リアルの事情やら他の作品との兼ね合いもあれど、最大の要因はプロットの問題でして……。これはひとまず後に回すとして。

カブトプスで何かえっちいのを書きたい、というのは大前提としてありましたが、なぜこんな文体になったのか。当時、岩田準一という大正時代の耽美派作家(江戸川乱歩の友人で、その筋では名高い『孤島の鬼』に登場するホモセクシュアルな登場人物のモデルになったとされています。余談ですがこれを原作の一つにした石井輝男という監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』という映画、メチャクチャ狂ってるのでオススメです。諸般の事情で国内版がないらしいけど……)の小説に触れ、「いいなあ」と思ったこと。何せ原文ママの旧字旧仮名で綴られていたので、即真似したくなったんです。例えば「憶江(ゑ)てゐる」みたいに「ゑ」を「江」と表記するの、ここから借りたんですよね。

 

群々の蔵書より。西荻窪にある盛林堂は本好きなら一度ならず何度でも行くべき古書店ですね!

とかく試しに戦前の旧字旧仮名を用いて小文を書いてみたら、なかなか書けそうだったから突っ走ってみようと思ったのです。当時は鬼滅ブーム真っ只中でもあったので、大正ノリもいいだろうという気になっていたし、この後に『「はいけい」ではじまる長いお手紙』という小学生のような文体で綴った小説とか『鯉王元結』みたいに全編落語調の短編だとかを書いたこともあって、文体に凝る小説をまた書きたかったのですね。それと、何か一発スゴいことして周囲をアッと言わせてやろうという気概があり。

実際、大正時代にかこつけて同時代の小ネタを引っ張り出して描写に反映するのは楽しい作業でした。文中に散りばめたそうしたネタについて、話をしようと思うと結構膨大になるし、何より別に請われてもいないことを嬉々として語ることは僕の趣味ではないので、大正ネタを漁るためのタネ本をいくつか列挙するだけに留めます。

 

出久根達郎『古本綺譚』

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直木賞作家で古本屋店主でもある著者による古書を巡るエッセイ集。たまたま神保町でこれを立ち読みした際に、葦原将軍なる人物に関するエピソードが目に留まり、これがなかなか面白い。実を言うと「拾陸章」でぺヱタア君が言及してるんですが、葦原将軍、なんと実在した人物なのです。現在も存在する精神病患者を取り扱う松沢病院に実際に入院していた人で、その奇行や言動がたびたび新聞紙面を飾っていたのだとか。大手新聞社の新人記者は「松沢参り」といって、この葦原将軍から諸々の時事問題に対してコメントを取ってくる、というのを実際やっていたそうです。

 

・指田菜穂子『日本文学大全集』

https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwiquc_n_938AhVXQfUHHbqbDroQFnoECB0QAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2F%25E6%2597%25A5%25E6%259C%25AC%25E6%2596%2587%25E5%25AD%25A6%25E5%25A4%25A7%25E5%2585%25A8%25E9%259B%2586-1901-1925-%25E6%258C%2587%25E7%2594%25B0%25E8%258F%259C%25E7%25A9%2582%25E5%25AD%2590%2Fdp%2F4908122164&usg=AOvVaw1ByjtF4PayjCS3e4qXEap6


昨年偶然この方の作品を知る機会があって、画集をペラペラめくってみたら、凄まじい明治・大正の小ネタ満載なのでした。作品見てみればわかるんですが、明治○年とか大正○年とテーマを1年に搾り、その年にあったあらゆる出来事——歴史的事象から三面記事的小ネタまで——を収集し、1枚の絵の中に詰め込んでるんです。で、この画集の注釈が実に読み物として面白く『パキモン』本編においても大いに参考にさせていただいたのでした。作品の舞台と想定している1922〜23年にかけては特に!

 

・大曲駒村『東京灰燼記』

https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwi4vuL2_938AhXmbt4KHY0VD3EQFnoECB0QAQ&url=https%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2F%25E6%259D%25B1%25E4%25BA%25AC%25E7%2581%25B0%25E7%2587%25BC%25E8%25A8%2598%25E2%2580%2595%25E9%2596%25A2%25E6%259D%25B1%25E5%25A4%25A7%25E9%259C%2587%25E7%2581%25AB%25E7%2581%25BD-%25E4%25B8%25AD%25E5%2585%25AC%25E6%2596%2587%25E5%25BA%25AB-150-%25E5%25A4%25A7%25E6%259B%25B2-%25E9%25A7%2592%25E6%259D%2591%2Fdp%2F4122008174&usg=AOvVaw2iAiHCHqkQqeE2gz7ARYes


著者の大曲は福島県に生まれ、銀行員として働いた後、浮世絵や古川柳の研究で名を知られた人物ですが、同時に関東大震災の翌月に発表したこのルポルタージュによっても有名です。非常に速報性が高いこの記録は、震災発生直後からの混乱した帝都の様子、各地で見られた夥しい死屍累々の地獄絵図やら、生存者たちによる証言など、非常に生々しい内容です。なぜそれをタネ本に挙げているかと言えば、最後まで読んだ人ならわかるでしょうが、今作の最後に関東大震災への言及があるためです。ラストの場面で今年で発生100年となる歴史的自然災害を描く、というのはかなり早い段階でイメージがされていました。とはいえ、それが大きく物語の足を引っ張ってしまった側面もあるのですが……

まあ、ふと思い出したときにtwitterで本当に独り言のように呟くときがあるかもしれません、とか書こうと思ったんですけど、タネ本だけでも随分書いてしまいます。

閑話休題。勢いで書き進めていたストーリーも中盤を過ぎた辺りから色々とプロットに困難を感じるようになりました。改めて振り返ると、主人公の画家とカブト(カブトプス)の関係という本筋とは微塵も関係のない、「ぺヱタア君」ですとか「F氏」周りのシナリオをやたら大きくし過ぎてしまったことが、反省点になるかと思います。とりわけ、「ミウ」の存在。当初の構想では、ぺヱタア君の相方のガラガラは実はメタモンで、話の途中でこっそり紅蓮の研究所に捕まっていたミュウと入れ替わって、山吹の青年たちと云々……といったトリックを考えていました。ただ、例の研究所の場面をよく読み返してみると、到底そんな芸当ができる状況にぺヱタア君は無かったわけで、早々にこのプランは破綻してしまいます。しかしそういうギミックを入れなければ、この挿話はひたすら壮大にしただけで、本筋に何の影響も与えない、いわば肩透かしのようなものになってしまいます。かといって、本筋と絡めせようとするとどんどん小説としての「ボロ」が露出してしまうように感じられる……こんな葛藤があり「拾漆章」以降の執筆は難航したのでした。

結局このような着地の仕方になったとはいえ、全体的に見ると、ぺヱタア君なんかは何がしたかったのか最後まで曖昧な描写に終始してしまった気がします。浅葱灯台のある崖から転落して死ぬ、という最期もこのキャラクターとしてはあまりに呆気ないのですが、こうやって無理矢理物語から退場させないと、話をたたむことができなかったのです。字書きとしての力の限界というか、長編では綿密な構成は避けては通れないということを痛感させられました(そしてそれはまだ続いている『Farewell, My Child of Nature』でも多かれ少なかれ繰り返されることでしょう)。

それと、書き始めた頃と書き終えた頃の心情の変化は大きかったです。初めは全てがカブトプスのエッチを描くためにあったような気がしますが、小説ってのはそれだけじゃ書けない、長編となればなおさら。書き続けているうちに、僕は小説であり物語を書かないといけなくなっていて、エロか小説か、その葛藤というのもおこがましいですが迷いの中に置かれていました。何より、このような明らかに反時代的な難渋な文体で10卍以上書くことに、二次創作の自由があるとはいえ、どこまで意味があるのか? その辺も含めて有識者(?)の意見を拝聴したく思っております。

今作について十全に語り切れたかどうかわかりませんが、長くなりすぎると放置してしまいそうなのでここで後書き兼反省を擱筆することにします。そして2022年の振り返りも『パキモン』をもって以上となります。他にもいくつか今年書いたor書き始めたものはありますが、それはちゃんと完結した後で改めて語ることにしましょう。もうとっくに2023年ではありますが、今年も不肖群々、ポケモンでもケモノでも表現していきたいことが残っているので、突っ走らせていただきます……

 

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