雑記240324

先週から気持ちばかり早寝早起きを心がけるようにした。惜しむように深酒し、夜更かしするのは止そうという試みである。そうすると案外、早起きはできるものである。

 

土曜はぼちぼち早朝に目覚め、昨晩入っていなかった風呂を済ますと、机やストールに山積みした本を手に取って読んでいる。読書の効率も良くなった。先週から読みかけだった本を数冊は読了したし、集中力も増している。雑多な読書なので詳細をいちいち書くと長くなるので割愛するが、久々に読んだ金井恵美子の初期短編の巧さには打ちのめされるような思いだった。身体感覚が滲み出るいちいち正確な描写、異常に「解像度」の高い文章、顕微鏡で拡大しなければ見えないくらい細かな「襞」までをも、どんなホコリやダニをもキャッチするクイックルワイパーみたいに——いや、クイックルワイパーだって髪の毛を取り逃がすことがあるのだからそれ以上だ——描写する文章……かといって鹿爪らしくなく、感覚的でみずみずしく。10年くらい途切れ途切れ読んできて、ようやく凄さがわかりはじめたかもしれない。

 

午前中に通院し、それから東中野の黎明アートルームに立ち寄る。住宅地に真ん中に設えられた小さな美術館だが、展示はとても充実していて好きである。1階では縄文土器が年代順に展示され、短いながら丁寧で正確な解説が施されていて、縄文土器と言えば岡本太郎が広めたイメージを想起するが、立体的で装飾性が強いのは縄文中期の土器が専らで、前期とか晩期などはまた違った趣であることを知る。

 


ところで、ここに常設されているガンダーラ期の菩薩像の体つきがとても好みなのである。美術というよりは単なる性癖の話であるが、来るたびに長時間ねっとりと眺めてしまう。顔が欠損しているが故に余計、筋肉と脂肪のつきかたの絶妙さに目がいく。それに天衣や裙という下着の襞がぴったりと肉体に密着するさまだとか、上裸に身につけた装飾がふっくらとした胸筋の谷間や脇腹の括れに食い込んでいるさまがイヤでも官能的で、こういう体型の子と仲良くなれたら毎日エッチしてもいいなあ、とか卑しい考えを思い浮かべている。

 

写真撮影禁止だったので、僕の稚拙なスケッチで許して


それから新宿、銀座など歩き回る。ハーフマラソンくらいの距離を歩いていた。
帰って、惣菜の寿司をつまみつつ、ビールとチューハイ。なんとも言えない、至福。

 

日曜は正午を回る少し前に部屋を出て、上野へ向かう。昨日、銀座でふらりと立ち寄った某ギャラリーで招待券を譲ってもらったので、せっかくだからと上野の森美術館VOCA展を見物しに行ったのであった。
VOCAというのは、若手や中堅を対象に毎年行われている公募のようなもので、アートの世界における芥川賞とか直木賞のようなものと言えばいいだろうか(それにしても芥川賞やら直木賞ってそんな大々的に報じるべきもんなんだろうか、ただ単に歴史があるから? ここでは関係のない話だけど……)。平面が主だが、中には意表を突いてインスタレーション風にまとめていたり、キャンバスをモニターに替えているものもあって、発想の幅広さは見ていて面白い。

 

この作品は、実際にあった殺人事件をモチーフにした版画作品。作者はこの事件の裁判を傍聴したうえで、事件現場を自らの足で巡ってその犯罪を追体験し、版画で作品化している……らしい


Xにも書いたが、ここに出品している作家たちは、表現をする以前にそれぞれ明確な問題意識をもったうえで、綿密な調査・研究(フィールドワークだとか、取材だとか)を重ねたうえで制作に臨んでいる。描きたいことを描く、といった表向き誠実なようでいてその大半は軽薄な制作態度とは対極の、厳格なまでの場所にいる……
尊敬すべき作家というのは、みんな徹底的に過去を、伝統を、歴史を、自分の信念から掘り下げている。そこまでしなければ作品に強度は生まれ得ない、ということを思い知らされる。いや、優れた作家のものを——それが小説家であれ、アーティストであれ、映画監督であれ——見せつけられれば、いつだって感服せずにはいられない。

 

上野から新宿に移動して、昨日から始まったばかりのSOMPO美術館の北欧の神秘展を観る。昔からマイナーなものに惹かれる自分からすれば、触手の動く展覧会である。
北欧の近代絵画は、基本的にはロマン主義から印象主義の洗礼を経て、象徴主義へ至る流れはフランスに端を発した芸術思潮に概ね沿っているのだが、独自の要素として、北欧神話のテーマが作品に投影されている点がある。北欧神話というと知っているようで、詳細についてはぼんやりしているところもあるから、現地の造詣が深い作家の作品を見るとまた違う印象になるのは面白かった。ムンク、最近ではハマスホイが脚光を浴びる北欧美術だが、未知の領域はまだまだあると思い知らされる展観だった。

 

北欧絵画はまだまだ知られざる世界、ということを見せつけられた展覧会でした

 

スマホの万歩計アプリを確認すると、この2日で24キロ歩いたということだ。さすがに、右足がちょっと痛くなった。