雑記240218

気分の落差が激しかった土日であった。細かくは言わないが、夕方にした約束を連絡もなしにすっぽかされてしまい、とても惨めな気分に陥った。最悪な気分で部屋にジッとしていていも寝るか酒を飲むかしかできない。とりあえず、フラフラと考えもなしに歩き、電車に乗って竹橋の国立近代美術館に行った。

 

特別展は中平卓馬であるが、これはまたの機会に(このところ写真家の展覧会が多い。安井仲治も東京展がそろそろ始まるし、木村伊兵衛牛腸茂雄もやるはずである、忘備録として)。コレクション展は夕方に入ると入館料が300円になってお得である。

 

4階、《行く春》や《騎龍観音》や《南風》など見慣れた館蔵品をまたもや観る。岸田劉生の《麗子像》に関する小特集。劉生が書いた麗子の素描の顔立ちがそこはかとなく有元利夫の描く人物像に似ていて面白かった(有元好きの友人に言ったら、やはり「ぽい」ということだ)。名取春仙と山村豊成の役者絵。隣は「アンティミテ」と題した一室。牛島憲之、牧野虎雄の色彩は好きだ。

 

原田直次郎《騎龍観音》(部分)

 

3階の戦争画の部屋では藤田嗣治の《血戦ガダルカナル》など。照明の関係で、近寄ると肝心の絵の中心部が白く光って見えにくいのが難儀である。コレクション展にはことあるごとに来ているが未だ《アッツ島玉砕》を観る機会はない。最奥の一室は芹沢銈介の特集をしていた。日本民藝館で売ったという手製のカレンダーが壁一面に展示されていて壮観。一角には芹沢の弟子で先日亡くなった柚木沙弥郎の染色もあった。日本画、洋画とは違う染色独特の深みある色も良い。そこまで観て閉館の10分前になった。

 

芹沢銈介のカレンダー

 

時間が押したので一つ一つはじっくり観られなかったが、今度中平卓馬展のついでにまた来るつもりで、2階は急ぎ足。昨年往生した野見山暁治の作品を観る。初めて直に拝見するが、観たことない類の抽象表現である。これは自然の抽象化か心象風景か、その混合とでもいうのか、短い時間観ただけではなんとも説明しようがない……中平展をやっている4月の初めまでにはまた観に来ようと思う。

 

何となく飯田橋まで歩いてから帰った。深夜、酒飲みながら友人にLINEを送り、自然と通話を始めていた。週明けから熱海で働くそうである。MOA美術館へ行くときにはお世話になります、それと、いい居酒屋も調べといてくれと頼んでおいた。1時間半ほど喋って、また別の知り合いと通話をし、朝まで。自分の憂鬱は憂鬱であるうちは犯罪に走りかねないほど深刻だと思い込んでいながら、結局は寝るか、飲酒するか、人と話すかすれば晴れてしまう。安いものである。

 

深酒したので、午後に目覚める。何となく中目黒の美術館へ行こうと思って、外に出て遅い昼飯を食うが既に4時を回ろうとしていたので、気が変わった。原宿に降りる。日曜の原宿は非常に混雑している。そして、とても歩く人に個性があって面白い。柴犬からトイプードルまで10匹以上のワンちゃんを散歩させている人、両足義足で歩く人、魔法少女のような格好をしたおじさん、たわしを犬のように繋いで引きずって歩いている人、みんな堂々としている。新宿や渋谷の雑踏とはどこか性格が違っていると思った。

 

竹下通り過ぎたあたりのとあるギャラリーを覗くことにしたのである。出品している作家から案内が来ていたのを思い出し、行ってみることにしたのである。ギャラリーを運営しているのは中国の人で、話を聞くと、日本国内の若手作家を中華圏のギャラリーや市場に売り出そうとしているそうである。

 

ギャラリーの一角には売約済みの絵がいくつも梱包されて壁に立てかけてあった。みな中国からの顧客という。今日なんかは10歳の子どもがプレゼントに絵を買って行ったなんてことも言っていた。近頃中国経済は低迷していると言われているが、金持ちが金持ちであることには変わりない。住宅や自動車、一通りの家財を買い揃えた中国の富裕層はアートに手を伸ばすんだという。そういう買い手やコレクターが作品を買うことで作家を支え、制作を続ける糧とする。確かに羨ましい好循環と言える。これからはアメリカだけでなく、中国などアジアの市場にも日本のアートを発信するような動きも本格化してくるのだろうと思った。

 

上野裕二郎《団龍/Swirling Dragon》

 

この龍の絵は面白かった。琳派的な華やかさと、ポップアートの派手さと野獣派を彷彿とさせる筆のタッチで現代的な龍図だ。色彩と輪郭が溶け合って調和している印象が、明確な形をとらない東洋的な「気」の表現になっているし、全体像を描かない伝統的な龍の図像にも連なっている。それに何より、一目見てカッコがいい。日本でも中国でも買い手が後を絶たないそうで、1年半ほどは注文が埋まっているそうだ。

 

瀬戸優のテラコッタ彫刻 こっちを見てくるぞ!

 

その隣に置かれていたテラコッタのみみずくの彫刻も印象的だった。凛とした佇まいも魅力的だが、象嵌された瞳はどの角度から見ても目が合うように作られていて驚いた。リアルに描くだけではなく、作家の美意識を動物に反映させているとギャラリーの主人は話していたが、確かにその通りだと思う。思いつきで尋ねたが、いいギャラリーを見つけた。定期的に足を運ぼうと思う。

 

表参道の駅までつくのに距離のわりに時間がかかった。本当に原宿は人が多い。買い出しして、家に帰り某サークルの集まりに参加。あとは飯を食い、自重をして、明日には返さねばならないシュオッブの翻訳を読み、これを書き、酒を飲まんとする。

 

小説の進捗。あまり良くない。筋と関わりのない描写をする段になると、急に言い回しや比喩に自信がなくなって、筆が止まりがちになってしまう。無用なことを必要以上に描写してしまうきらいがあるかもしれない。