なぜかガラル転生したコライドンだけど、イケメンなのですべて何とかなった 33話

 

 ちょっと遅ればせながら33話更新。次回分をあげたらwikiもまとめて更新予定。

 一晩のホモ描写だけで字数嵩んでんよー

 

 33

 

 喉袋の上には触手のようなガブリアスの大きな雄がしなだれかかっていた。ついさっき別の雄の体内に発散したばかりであるはずのそいつは、すっとぼけたように限界まで漲っている。
 狂うように胸に吸い付き、鎖骨と首筋が生々しく浮き上がっている辺りにもキツく鼻を押し付けてひとしきり堪能してしまえば、次はそうなることなど考えるまでもなかった。促されるがままに、コライドンはごく自然に、丸太の上に大股開けて座っているガブリアスの真正面に陣取って、荘厳ささえ感じさせるほどゆったりとした動作で跪いたのだった。そして、眩しいほどに黄色に染まった腹のすぐ下にうっすらと走る縦線から、中に押し込められていたそいつが舌を出すように露出し、コライドンの胸袋の上を、カビゴンの腹上ではしゃぐ子供たちのように跳ね回ったのだ。
「いいぜ……そろそろコイツも」
 草いきれのように湧き立つ雄のいかにもな雄臭さが嗅覚を支配する。花々やきのみの香りなどとは断じて形容できないキツい香りであるはずなのに、何度も鼻腔をひくつかせてその臭いを確かめたくなってしまうのは何故なのかわからなかった。血色の良い肉棒が誘うように先端をくいともたげた。肉体の内側でたっぷりとまとった粘膜が目の前で銀色に妖しく輝いた。
「しゃぶれよ」
 ガブリアスがその熱く硬いペニスを戯れに爪で掬い上げては、ペチンと、コライドンの喉袋に叩きつける。コライドンは不意に唾をゴクリと飲み込んだ。股間にぐっと力を込めると、オージャの湖にうじゃうじゃといたあのシャリタツのようにそれが勢いよく上方へ反り返る。
「へっ、ヨダレ垂らしてんじゃねえよ、『エロ』イドン?」
 コライドンは黙っていた。断ろうとしたって無駄だろうし、そんなことをしようとしてもコライドン自身でさえ説得力をもってコイツに具合の良い反駁ができるなどとは思いも寄らなかった。生え際の切れ込みのところに鼻腔を押し当て、体液が煮詰まってツンと饐えた臭いを一気に肺へ取り込んだ。額の羽根を虫ポケモンたちの触角のように敏感に動かしながら、ガブリアスの内側から込み上げるひねくれた臭いを繰り返し吸って、吐いて、吸って、吐いてした。
 ご満悦そうにガブリアスの爪がコライドンの冠羽に触れ、掻き撫でるというよりは、掻きむしらんばかりの勢いでくしゃりと羽根を押し潰しながら、コライドンの頭蓋に擦り付けてくる。コライドンは息継ぎをするように顔を上半身ごと横に傾かせ、聳り立つガブリアスのそれを側面から食むように咥えた。それは全く大したサイズで、コライドンの口にも余る太さをしていた。おまけに、これでもまだ完全に興奮しきっていないのか、その大きさと太さが増していく気がし、不意にそこに強く力が入れられると、油断しては顎を持っていかれそうだった。
 目を細めつつ、しっかりと口で挟み込んだまま絞り上げるように慎重にペニスの根本から先端までを舐め上げてやる。抵抗感のある硬さを感じながら、やっと先っぽまで啜ると、息を継ぐ間もなく、今度はそれをすっかり口に含もうと真上から覆い被さるようにしゃぶり出す。
「へっ、スゲエ喰いつき……!」
 口の中で、改めてガブリアスの肉棒の巨大さが感じられた。こじ開けられるように口を上下に開いてやっと先っぽが口腔に入るという感触である。えづきそうになるのを堪えながら、ゆっくりと慎重に、相手の腹に顔を埋めるように根本まで目指して咥え込んでいこうと頑張る。まだ半分ほども達していないのに、先端が喉仏に届きそうだった。もし、うっかり喉元をきゅっと閉じてしまいなどしたら、そのままガブリアスのペニスで栓をされ、窒息しかねなかった。
「……ぅぐっ」
 何とか根本まで咥え切り、ちょうどガブリアスの股に口先を押し付ける体勢になった。しばらくそのままにして、胸を伸縮させて息を整えてから、ゆっくりと頭を前後させ始めた。
 ガブリアスは鼻を鳴らしながら、自分の雄がコライドンに水音立てて口淫されるのを、余裕そうに眺めていた。
「テメエみてえな雄が、らしくねえ慎ましいフェラなんかしやがって……あー、マジエロっ」
 ペニスの圧迫感は強く、自分からしゃぶりにいったつもりが、向こうから一方的にペニスを突っ込まされているような陵辱感を覚えながら、フェラを続ける。元より強烈だった雄臭はフェラするごとにますます強まっていくようだった。舐めれば舐めるほど、この臭いが他の何にも増して芳しいのだと思わされた。ガブリアスの先端から絶え間なく溢れ出る我慢汁の塩辛い味がほんのりと舌に染み渡る。
——こんなに熱心に雄のチンポしゃぶりやがって、恥ずかしくねえのかよ?
 そんなことを言われた気がして、コライドンは上目遣いにガブリアスをチラリと覗いたが、満足げに舌舐めずりをしているだけである。考えてみれば、今聞いた声はガブリアスの戯けたところのある口ぶりとはまるで違っていた。
 爪の平たいところを器用に使いながら、コライドンの顔を挟み込んで持ち上げ、自分のペニスから引き離した。二匹は顔を見合わせた。こちらを見下ろす形のガブリアスは、もう、何も言わなくたってわかるよな? そう言いたげであることをコライドンは察していた。
 躊躇い気味に膝立ちのままその場でガブリアスに背を向けると、両腕を地べたについて、それからもぞもぞと不器用げに腰を揺らしながら、さっきプテラオンバーンがしていたのと同じ姿勢で「おねだり」をした。
「へえっ!……エッチじゃねえかよぅ」
 ガブリアスは引きつった笑みを浮かべた。想像以上のものを見ることができて、思わず平静を失いかけたかのような笑い方だった。コライドンは自らの振る舞いを突飛で滑稽とすら思う一方で、すっかりその仕草が堂に入っていることも認めないわけにはいかなかった。思い出せそうで思い出せない、もう少しで見えそうで、聞こえそうな、あったかもしれない経験か体験の記憶がコライドンにそう思わせていた。けれどもそんなことはさておいて、コライドンの肉体が、ヤドキングの脳髄を支配するシェルダーのように、手遅れながらもまだ躊躇っている理性を押し除け「気持ちのいいこと」を欲望している。
 自分の奥底にこんなものが眠っていたことに、コライドンは驚きと、それと矛盾しているある種の喜びも感じていた。しっかりとした骨格に隆々とした筋肉を乗せた二対の膨らみに埋もれた出口であり入口であるところの奥の奥が激しく疼いているのを、もうどうしようもすることができなかった。コライドンは四つん這いのまま首を横に振った。
 嬉々としたガブリアスの腰がぐいぐいと突き出されて、黒い鱗に覆われたコライドンの尻尾を捲り上げた。熱望しきったペニスをコライドンの臀部にぺっとりと寄り添わせると、その思いもがけない熱さに腰が引けそうになる。循環する血液が煮立っているみたいだった。ペニスから逃れようとしたコライドンの腰を、手慣れた動作で引き戻すと、臆病なのか大胆なのかわからない均整整った尻を手首についた鰭で容赦なく引っ叩いた。自分でもこんな声が出るのかと思うほど甘ったるい声でぐぉぉおんっ!……コライドンは叫んでしまう。
「けっ……想像以上のド変態が」
 戯れにビンタを張られた尻たぶが、冷えてきた宵の空気に当てられてほんのりとヒリヒリして、物陰ではあれど野外でそんなことをしようとしていることを意識し、自覚し、恥ずかしくなってきて、にっちもさっちもいかない気持ちだった。トロピウスの房のように実った股ぐらのペニスがいきなりキュンと力強く持ち上がった。
「っしゃ、じゃあとっとと俺のとっておきぶちこんでやろうなあっ……!」
 間髪入れず、ガブリアスのものがコライドンの——あるかどうかもわからないし、元々そんなものはなかったのかもしれないが——雄の矜持に侵食し始めた。ゆっくりと熱く滾ったものが排泄する穴から内側に挿入ってくる。周囲の凝った肉を無理やりこじ開けられる痛みに、始めはつい拳を握りしめてしまうが、そこを乗り越えると、後はレトルトめんを一息に啜るように、直腸へど太い棒が滑り込んだ。
「ぐぉっ……」
「っしゃ、いくぜっ……!」
 間髪入れずに腰を振り、尻に向かって腹を打ち付け始める。終始大きなものを出し挿れされる強烈な異物感を顔を歪めながらなんとか堪える。けれども、コライドン自身、異物を押し込まれて反射的に直腸ごとお尻をキュッと窄める感覚そのものに、何かむず痒い記憶が込められている気がした。手を伸ばし、神経質になった淫らな性器を軽く扱くと、犯されている尻の熱さに呼応して、威嚇するガオガエンのように自然と腰が突き立ってしまう。
 丹田の裏側で、猛烈に欲求が疼いていた。ガブリアスが腰を強く押し付けた時に、その強靭なペニスが微かにその辺りを微かに擦り付けては、また遠ざかっていく。もっと強く、ゴリゴリと押し付けるように擦ってくれれば、と想像すると、かえってカラダが欲望から熱くなるのだった。違う、そういうコトじゃ——と否定しようとしても、逆効果だった。ガブリアスに攻められるがまま、何度も押し寄せてくる圧迫感と、その裏返しにジワジワとくる心地の良さの繰り返しに、思考はほとんど奪われつつあった。
「あー……テメエの……すげっ……イイっ」
「ぅぐぅ……!」
「弄ってもねえのにあっさり挿入りやがって、ったく、油断も隙もねえな?」
「ああっ……」
「おい、ケツ気持ちいいかよ?」
「……」
「ケツ気持ちいいかって聞いてんだろうが……よっ」
「ぐっ!」
「へっ、いい音!」
「おい」
「お利口ぶったってもう無駄だってわかってんだろ? 素直にケツ気持ちいいって言ってみろよ……気ぃ、楽になるぜ」
「んぐぅ……! はあぁっ……」
「素直じゃねえな。だったら、俺のチンポでもっと気持ちよくさせてやんねえとなあ?……」
「はあっ……ああっ……!」
「エッチにケツブルブルさせやがって、このガバドラゴンがよう……」
「おい」
「にしても、このケツは処女じゃねえみてえだな。黙ってるくせ、陰ではしっかりヤッてきたんだな……ま、俺のチンポが一番イイってわからせてやるから、覚悟してろよ
「……ぐぅぅぅっ!」
「おい!」
 脳裏に聞こえる声でも、ガブリアスのものでもない、けれども聞き馴染んだ声がした。ガブリアスに繋がれたまま、ハッとして声がした方へ首を向けた。いま、こんなことをしている姿を一番見られたくないと思う相手が、まさしくそこに立っているのだった。コライドンの胸元の喉袋が一息に萎んでいくように感じられた。

雑記240303

先日のポケモンデイの発表について考えをまとめようとしたがうまくいかずに放置した。気が向けばまとめるかもしれないし、このまま忘れるかもしれない。

土曜は昼過ぎに外出し、いくつか回ろうと思っていた美術館やギャラリーを訪ねた。中目黒での「ウィム・ウェンダースの透明なまなざし」。最終日だけに小さなスペースに来客が押し寄せていた。ウェンダース自身が撮影した写真やアートグラフィックスの展示だった。90年代に放映されたウェンダースのドキュメンタリーも上映されていた。夢のイメージ——見えそうで見えない、わかりそうでわからない——が、そこでは展開されていた。あるいは、体験したことがないはずなのになぜか親しく、懐かしさが感じられるイメージの集積。

 

 

恵比寿に移動し、山種美術館の「Seed 山種美術館アワード2024」の入選・入賞者展を観る。どれも個性があって、ステレオタイプな「日本画」というイメージを刷新するような作品ばかりで楽しい。入賞者たちの経歴を見ると、殆どが大概別の公募で入選・入賞済みであったり個展の実績多数といった実力者ばかりだから当然のことではあるかもしれないが。

 

山種の館内とかこういう時くらいしか写真撮れないのでせっかくだから


第二展示室の所蔵品も満足して観た。速水御舟の《昆虫二題》をまた観れて嬉しい。《葉陰魔手》《粧蛾舞戯》という言葉はいつみても良い。小説の題に借りたいくらい。《葉陰魔手》の気の遠くなる程の微細に描かれた蜘蛛の巣、張り詰めた構図の中心にしかと存在感を漂わす一匹の蜘蛛、なんだかコレでアゲハントに恋するアリアドスという話の裏面を意趣返しに書いてやりたい気にさせられる。

時間潰す合間にコライドンの話を書き、更新する。

 

kino cinema いい映画館だった

 

新宿でウェンダースの『PERFECT DAYS』観る。鑑賞後の気分がすこぶる良い映画だった。基本的に同じような日々が続く内容なのに不思議と見飽きない。いくつか展覧会を巡った後だから前半は眠りこけるのではないかと思ったがそんなこともなかったのである。一見同じようにしか見えない日常を新鮮に生きる役所広司演じる平山という男は魅力的だった。生活の身振り一つ一つに確かな生きているという手応えがあり、「機械的」という言葉の対極にあるような姿だ。

深夜に帰宅し、pixivにコライドンの更新分あげる。前回からちょうど1年が経っていた。時が経つのは早いと言ってしまえばそれまで、それまで。

深酒をして朝までいたので、目覚ましなど当然効き目なく、午後3時前に起きる。日本橋三越にて手塚雄二展観る。天井絵は前々に見物していたが、展覧会の方は会期ギリギリまで足を運んでいなかったのを思い出して駆け込んだのである。院展の歴代の出品作が中心の展示で、色彩や技法の引き出しの多さは流石今の日本画壇の先頭にいる人の絵と感心した。典型的な日本画にいう日本的美というのは得てしてナショナリズムに接近してしまいがちであるが(そもそもその日本的美というのは極めて定義が曖昧ではないか。大江健三郎が「あいまいな日本の私」と言ったように)、この人の絵に描かれている美は、もっと大きな視野から捉えた美なのだと思われた。富士山、とかいうわかりやすいモチーフではなく、画家自ら見出した自然、生物の一瞬垣間見せる美しさという気がした。

 

《花護》結構好き

阿吽の龍、だそうである。英語にするとalpha dragon omega dragon、だとか

このまま帰ってジムとぼんやり考えていたがあっさりと撤回して、銀座を回る。蔦屋書店にていくつかの展示見物する。「ART NOW→FUTURE」展、顔ぶれを不思議に思って、とりあえず観てやろうという気で来た。Neuronoaの顔を塗りつぶしたいかにも現代的な肖像画の隣に中島健太の堅実な写実画が並ぶ光景などこれが最初で最後ではないか、と思う。それでもこういう並びで観ていると、中島健太の《匿名の地平線》という海景画も千住博の《waterfall》に張り合おうとしているのか、などと勝手な想像もされてくる。

 

こういう肖像画は現代の不穏な時代における不安定なアイデンティティを表象している……とは一般論である。君たちの考えは如何

なんか名前は知ってたが、こういう展示では初めて観た中島健

 

帰って、辛子明太子をつまみにしてミドリさんから貰った日本酒をこれにて飲み切る。ぐい呑みを思い切って買ってしまってから日本酒はすすむ、すすむ。
それで真夜中に唐揚げをつまみながらハイボールを追加する。とはいえ、寝遅刻が怖いので控えめにはしようと思う……

なぜかガラル転生したコライドンだけど、イケメンなのですべて何とかなった 32話

深夜あたりに久々に26話〜32話をpixivに更新する予定です。前回からジャスト1年経ってしまった……

 

 32

 

 こんなことしてる場合じゃないってのに、と頭では思っているのに、コライドンの手はガブリアスの胸をガッチリと掴んでしまっている。あまつさえ、爪先をゆっくりと動かして揉みしだいてしまうのだ。ちょうどオンバーンがコライドンの胸を惚れ惚れしながら揉んできたように、コライドンもガブリアスの恵まれた野生的なガタイに言いようもなく惹かれてしまっていた。
「いいぜ、好きなだけ触りな……」
 まるでいつも大きく息を吸ってでもいるかのようにパンパンに膨れ上がった胸筋は、微細な鱗に覆われているので、表面をこんがりと焼いたパンのような触り心地なのに、そのくせ雲のように柔らかく、知らず知らずのうちにコライドンの手先は同じ動作を繰り返してしまう。
ガブリアスは空いた手で峻厳な力こぶを作りながらポーズをし、捻れた筋肉が収斂する腋をチラリと見せつけてくる。恥じらう気持ちとは裏腹に、カラダは少しずつ昂ぶっているのだからたまらない。鍛えられた雄胸をゆっくりとした手つきで揉みしだいていくと、奴の橙色の鱗がいっそうと血色付いて、日も暮れたというのに朝日のように眩く見えた。
 何が自分をそうさせているのか、コライドンはわからなかった。わかっているのかもしれないが、それからは目を背けていた。脳裏にはジャラランガの渋い顔が浮かぶ。あんまし帰りが遅くなってもいけないよな、と真面目に考えているつもりでいながら、そのくせ全然そうでもないのだった。捏ねるように指先を動かして、それに合わせて柔軟に形を変えるガブリアスの胸の感触を味わっているのは他ならぬコライドン自身なのだから。
 もっと弄り回してくれよ、とばかりにガブリアスは胸を張り、筋肉の塊をコライドンの手のひらに押し付けてくる。コライドンはどぎまぎしながら、あくまでも興奮していることを顔に出さないように、真剣そのものな顔つきでいる。あたかも、これは前戯などではなく、陶器の形を整えるための大事な作業なのだ、とでも言うように。ガブリアスはそんな彼を微笑ましく眺めながら、時折敏感なところに触れられると、大袈裟に上体を震わせた。
「どうだよ?」
「……」
「強つくばりだな、テメエも。こんなに俺の『雄っぱい』が大好きなくせによ」
 何と答えればいいのか、コライドンはわからなかった。言い返そうにも、自分がガブリアスの胸を案外熱心に触って、しかも満更でもないということ自体が、どんな言い訳も封じてしまっていた。確かに、いい形をしていた。そんな爪をしていたら腕立て伏せもろくにできないだろうし、重いものだって持ち上げることもできないだろうに、よくもこんな筋骨隆々に鍛えることができたものだと真面目に感心などしている。いや、俺は一体何てこと考えてるんだ、と考え直したところで自分さえ納得させることはできなかった。
「クソ最高だぜ。テメエも俺と同じだったなんてなあ……」
「同じ?」
「今さら惚けんなよ!」
 コライドンのこめかみに鼻先を押し当てながら、ガブリアスは囁く。りゅうのいぶきのような熱い吐息がコライドンの羽根を揺り動かした。
「いいか? テメエみてえな雄はな、俺ともっとエロいことしなきゃいけねえぜ」
 頭上の羽根を総毛立たせたコライドンに向かって、ガブリアスはニッと牙を見せつけて不敵に笑う。
「何、戸惑ってんだよ? テメエも実はよくわかってるくせに。ウジウジしてるけど、ぶっちゃけ俺とヤリたいんだろ?」
「……」
「ふうん、いつまでもテメエが口ごもってんならじゃあ俺の方から言ってやろうか? 一晩相手してやったら、テメエが知りてえことも教えてやるよ、ついでにな」
「あっ……!」
「ったく、テメエはもっと自分に自信を持った方がいいぜ。特にこんな弱肉強食なワイルドエリアじゃあな!」
 それに少なくとも、俺はあのジャラジャラした野郎よりは馬鹿じゃねえからな。と自信満々に、全ての筋肉を強調しながらガブリアスは言い切る。
「とはいえ、ちっ! 揉まれるだけじゃ全然物足んねえぜぇ……!」
 無理やりガブリアスに顔を胸元へ引き寄せられると、彫りの深い胸の輪郭が視界いっぱいに映り込んでくる。盛り上がった胸筋の麓には濃い影が差して、太いペンで弓なりの曲線を書いたような輪郭が胸と腹の境目をくっきりと分けていた。まるで急峻な土地のジオラマを間近でまじまじと見ている感じだった。
 言われるがままに、深く切り立った谷間に恐る恐る顔を埋めると、漲ってツヤツヤとした鱗が鼻先にピタッと触れる。力強い胸の鼓動がコライドンの顔をドク、ドクと震わせる。マズルで左右にこじ開けられた胸筋がいま一度反発して、コライドンの顔を挟み込む。思いのほか締め付けが強いのにコライドンはビックリし、水面であたふたしてうっかり水を飲み込んでしまうように、ますます強くなる雄々しい臭いを勢いよく吸ってしまう。
「いいぜ。じゃ、今度は俺の『雄っぱい』吸ってくれな?」
 鳩尾の臭いをひとしきり嗅いだ後、コライドンは頭がいっぱいになったかのように何かを筋道立てて考えるのに困難を感じながら、胸の谷間から顔を離し、ふう、と息継ぎをしたら、今度はガブリアスの胸の一番膨らんだところに口を押し付けた。軽く口先を窄めて空気を取り込もうとするだけで、ガブリアスの胸がぴったりと口に吸い付いた。鱗の口当たりはユキハミのようにモチモチとしていて、口を遠ざけようとしてみると、しばらく一緒にひっついてくる。それが何だか面白くて、コライドンは何度か——自分のやっていることのおかしさと馬鹿馬鹿しさを重々理解しはしながらも——繰り返した。
 なぜだか、初めてしたという気がしなかった。遠い、いつのことだかもわからない記憶が、電気回路が繋がった一瞬の輝きのように、脳裏に像を結んだ。
——今のお前、最高に無様で哀れで可愛いよ。
 けれどもそれがコライドン自身が経験した過去の記憶であるのか、いつか見たやけに明瞭な夢の断片であるのかを、確信することはできなかった。コライドンは熱心にガブリアスの右胸への接吻を繰り返す。ちゅうちゅうと、子供っぽい音を立てながら胸を吸い、それから二股の舌を伸ばした。ぎこちなく上下左右に動かしながら逞しすぎる胸を愛撫する。
「ふぅ……コライドンに雄っぱい舐められんの、たまんねえよマジでえっ!」
 舌の筋肉に痛みを感じて、胸から顔を離そうとしたが、間髪入れずガブリアスの腕がコライドンを抱え込んで、次は反対の胸にぎゅうと押しつけられる。
「むかし、カロスってとこを旅してた時だけどよ」
 言い忘れてたが、トレーナーに付き従ってた時にな、と妙に率直にガブリアスは話す。
「なんかでっけえ城の広い庭に、立派なポケモンの彫刻があったんだ。名前何つったっけ……とにかく、体つきがエロかったってのは覚えてる。ああいう雄と好き放題ヤッてみてえよって妄想したんだよなあ……けど、今のテメエはそれ以上だよ、ガチで!」
 これだけでは到底済みそうではない、と流石のコライドンも悟っていた。ガラルによく分からず飛ばされて、ジャラランガの奴に介抱されてからの日々がたった一晩でひっくり返ろうとしているのを、その屈強で張り詰めた肉体をもってしても、どうすることはできそうになかった。ただ、パルデアへ帰るための「鍵」をガブリアスが人質として持っている、ということだけが頼りだった。けれど、それは何に対して「仕方がなかった」と言うためだろう? それは、当然——とはいえ、ガブリアスの雄の臭いはそんなことを冷静に考えることだって許してくれないのだった。コライドンはガブリアスの胸を口先で、舌先で感じさせ続けていた。

なぜかガラル転生したコライドンだけど、イケメンなのですべて何とかなった 31話

 31

 

 ガブリアスの住処は思いの外こじんまりとしたところにあった。崖を背にして周囲から孤立して生えたアカマツの木の脇に横たわる丸太に差し掛かったとき、ガブリアスが大きく背筋を伸ばしながら腰を降ろした。その様子がいかにも気安く、無防備でさえあったから、コイツは普段からここで寝泊まりしているのだとコライドンは悟った。岩壁に穿たれた薄暗い洞穴のような場所を何とはなしに想像していたので、まるで隅っこに追いやられたかのようにぽつねんとあるこの場所に、屈強なガブリアスが住み着いているのは、なんだか不思議な気がした。
「そんなとこ突っ立ってどうすんだ?」
 その場でつい立ち尽くしていたコライドンにガブリアスは言った。
「俺の隣、空いてるぜ。座れよ」
 自分が座っている横を爪でトントンと叩くあいだ、ガブリアスの目線はコライドンをしっかり捉えて離れなかった。その眼差しは有無を言わさぬように、相も変わらず挑戦的でこちらを誘惑しようとしているところがあった。
 言われた通り丸太に座る。正面にはナックル丘陵のなだらかな傾斜が見え、そこを一番上り切ったところに、ナックルシティ——ジャラランガからその街の名を聞いたことがあるだけで、当然ながら足を運んだことはない——を取り囲む城壁が覗いている。視線を別の場所に遣ると、砂漠の砂塵で見かけた岩石同士がもたれ合ってできた天然のアーチが遠目に眺められた。
 さて、どこから話を切り出すべきだろうか……コライドンが考えつつも言いあぐねている間に、隣のガブリアスは欠伸や背伸びのついでにコライドンとの距離をさりげなく徐々に詰めてくる。気がつくと二匹の尻尾は後ろ側でさりげなく絡みつきそうになっていたし、腰ももう少しで触れ合いそうなところまで迫っていた。怪しい視線が首もとから脇腹までをねっとりと舐めるように走っていた。
「どうだ、気に入ったか?」
 自慢げに自分のいる一帯を顎でしゃくりながら、ガブリアスは意味深な視線をコライドンに浴びせる。初めて会った時とはうって変わって馴れ馴れしい相手に対して、どのような言動を取るべきかコライドンは迷っていたが、ひとまずは純粋な感想を素直に伝えてみることにした。
「気に入ってんだよ、こういうとこが」
「……どうして?」
「ワイルドエリアの中じゃあ、わりかし静かなとこだしな。周りの草むらにはサイホーンが群れなしてるから、小賢しい奴らもそうそう近づいてこねえし。一匹で寝泊まりするにはいいとこだ」
 ガブリアスの受け答えは案外真面目なものだった。奴なりにこの辺りを探し回って、自分の中に抱えていた理想的な条件にピッタリと合うねぐらということなのかもしれない。この場所を見出すまでに、腕を組んで考え込みながらワイルドエリアのあちこちを歩き回っているガブリアスの姿が何とはなしに想像された。
「騒がしい方が好きなように見えるから意外だった」
「ふうん、じゃあテメエは賑やかな方が好きってのか?」
 そう言われると、断言はできなかった。パルデアで住んでいた場所も、陸から少し泳いで行った場所にある断崖絶壁の孤島だったのだから。日が暮れて、そこによじ登って戻ってきては、空から微かに聞こえるカイデンやオトシドリの遠くからの鳴き声をぼんやりと聞きながら、うとうとと眠りにつくのが、そういえば習慣だった。生暖かい風が仰向けに寝転んだカラダをそよそよと撫でるのが心地よかったし、背中に触れる岩肌のゴツゴツとした感触もまるでツボを押すように、日がな一日動き回った肉体を揉みほぐしてくれるように感じられ、それに身を任せているうちにいつの間にか眠りについたものだ——あっちの世界にいた時の感覚と記憶を、コライドンは久々に思い返した気がした。すると、あの場所で過ごしていた時がもう遥か遠い昔になってしまったように思えてきて、心の奥へ如何ともし難い郷愁が波のように押し寄せてくる。
 ガブリアスのねぐらは静かだった。草むらからほんの少しサイホーンが鈍重に動く気配がする他は、穏やかな風の音、鏡池に何かが飛び込む音が時たま、聞こえるばかりだった。それにしても注意深く耳を傾けていなければ聞き損ねてしまいそうなほどに微弱なのだ。目に見えるものこそ違うけれども、ガブリアスがこの場所に抱く感情は、コライドンがつい最近まで親しんでいた感覚に近いのかもしれなかった。こんな時に、こんな奴に親近感を抱いている場合じゃないだろうに、とコライドンは自分を恥じたくなった。
 視野の端っこでガブリアスの胸板がさっきからピクピクと脈打っているのにドキリとして、つい横目で見遣ると、待ってましたとばかりニヤニヤとした奴と一瞬目が合ってしまった。張り詰めるくらいに筋肉を詰め込んだ胸は、表面の鮮やかな橙色も相まって、とても血色が良く健康的ではあった。コライドンはため息をつく。
「落ち着くだろ? なあ?」
 誘導するかのようなガブリアスの物言いには屈しまいと、コライドンは黙って背中を丸め、眼前の穏やかな景色に集中しようとする。とはいえ言葉を交わすにつれ、ジャラランガが事あるごとに喧伝していたガブリアスのイメージとはだいぶ違っていることがわかってきたために、コライドンは奴にどういう態度で臨めばいいのか、自信を持てなくなってしまった。付き合うだけ付き合ってはやるけど、その後のことは保証しない——と、さっきはあんなに強く出たくせ、こいつのペースに持って行かれてしまっている。これじゃ、ただこいつと親交を深めに来たみたいになっちまう。手持ち無沙汰にアホ毛のような冠羽を爪先で弾いたら、ガブリアスがしてやったりとばかりに笑う。
「ふうん、黙ってるってことは、やぶさかでもねえってことだな?」
 そう合点して一方的に話を進める。
「だからこないだ言ったじゃねえか、俺のとこ来ねえかって! あんなジャラジャラジャラジャラうっせえとこなんかほっといてよ!」
 それに俺たち、ある意味もう『兄弟』じゃねえかあ? と余計な一言を付け加えてくるのが、グサリと心に突き刺さる。さっきの自分たちの姿体を思い起こし、つい頭を抱えたくなりながら、今も鱗をカチャカチャと鳴らしながら自分の帰りをやきもきして待っているのだろうジャラランガのことを考え、ヤり捨てるような形になってしまった彼らが無事に帰ることができたかどうか心配する。けれども、それはどちらかと言えば自分とガブリアスとの距離が否応なしに近づいていることを意識したくないためではないだろうか、とどこか冷静になっている自分もいた。
「……昔はアイツとデキてたんだってな?」
 少しでも話題を逸らそうとして、ジャラランガのことを持ち出した。孤島に住んでるオノノクスから聞いたんだけど、と特に言う必要もないことまで付け加えて。
「最近別れたらしいが、何かあったのか?」
「ふうん? いまそんなこと聞くけえ?」
 惚けた返事を返しながら、テメエ、やっぱり面白い野郎だぜ。そう言いたげな顔を頬の間近まで寄せて、これからお前の肖像画でも描いてやるとでも言いたげに目に力を込めて、コライドンの顔やら群青から薄紫色にグラデーションする羽根の色あいまでも目に焼き付けようとしてくる。
「何つうか……ヨリ戻す気はないのかよ」
「あるわけねえだろ?」
 ガブリアスは気怠げに上半身を前傾させて、両腕をダラリと垂らすと、半目になって悪そうな目付きをする。それがジャラランガの真似であることはコライドンにもすぐわかった。ガブリアスは悪どく笑ってみせる。
「雰囲気似てんだろ? マジそっくりだぜ、コレ」
「そんな真似できるくらいつるんでたのに、仲違いしたのか」
「あのバカがジャラジャラうぜえのが悪いんだ」
 ジャラランガの姿勢を真似ながら惚けたように口を半開きにして、口端からヨダレまで垂らして見せるのには、いささかの誇張と揶揄が混じっていた。
「けどなあ、そんな話なんざ、クソほどどうでもいいじゃねえか? 肩の力抜けよ」
 そう言って、ガブリアスはコライドンの腰に腕を滑り込ませた。ぷっくりと力こぶを作った二の腕がコライドンの弓なりにカーブした背中にギュッと頬ずりする。クソっ、もう耐えられねえよ……とばかりにガブリアスは鼻先をコライドンの首筋に押し当てて、轟音を立てながら強靭な雄の臭いを吸った。
「ったく、あのゴリラ、ほんと馬鹿でトンマだよなあ……!」
 マシェードの胞子でトリップしたかのようにうっとりとした表情を浮かべながらガブリアスは言った。
「テメエみたいな奴が目の前にいたら、どんな雄だって頭やられちまうに決まってんだろうがあ……テメエに自覚あるかわかんねえけど、マジどスケベなんだからなコライドンさんよぉ……アイツだってそう思ってたに決まってる! けど、どうしようもねえ馬鹿だから、勝手に自分のこと押さえつけて結局損しかできねえんだ、馬鹿だよ、ほんとクソほどしょうもねえ馬鹿! ああ、莫ァ迦!」
 発達したガブリアスの胸筋がまるで一つの臓器のようにコライドンのすぐそばでまた敏感んに脈打った。コライドンもコライドンとて、抑えつけようもない本能がガブリアスの肉体にひどく反応していることを否定しようがなかった。奔放で粗野で、称えられるべき垂涎もののガタイだった。どんなに体裁を取り繕おうが、プテラオンバーンの二匹組を交えてあんな行為をしてしまったからには、結局のところ、そういうことをしたいがために、パルデアへ戻るだの、居候先のジャラランガへの配慮だのはひとまずは二の次にして、ここに来てしまったのだということを薄々ながらコライドンは悟り、巨大な花のような尾羽がしゅんと萎れるように閉じてしまうのを感じた。

雑記240225

 3連休に限って天候も崩れるし、しかも寒い。出かけようと思っていたところもあったのだが、初日の金曜はほとんど寝て過ごしてしまった。今思い起こしてみても、何をしたのかすぐには思い出せない有様。どうでもいいということか。

 土曜は字書きの某氏の頼みで丸一日付きっきりで作業通話をしている。向こうがずっと書いているのでこちらもいい加減書き上げようと思っていたものを書いて、pixivに上げておく。深夜に向こうが書いた原稿が仕上がったので、読ませてもらう。都合上、詳しくは話せないが良い小説だと思う。作品に漂う寂寥感、諦念がひときわ印象に残った。このところ旧TwitterのTLがひっそりとしていて、あまり同業者(と言うべきなのか)たちと、励んでいるという感覚——しかし、「共にある」という感覚それ自体、自分がそう思っているだけかもしれず——が希薄で、薄々物寂しさを感じていたこともあったのだろうか、とにかくノスタルジアと言っては大袈裟だろうが、そんな孤絶した感覚を抱くものである(この間観たタルコフスキーの『ノスタルジア』のイメージ、孤独に感じられる時は本当にどこからも音が聞こえないものだ)。

 フォロワーとの会話からふと2年前このブログで書いた記事を読み返した。この時の自分の書きぶりがとても自由に感じられる。余計な自己検閲をせずに、言葉を吐き出しているという印象があった。そういうことができたのは、読み手に対する信頼があったのかもしれない、と書いていて思いつきのようなことを考えた。つまりこう書いたとしても、読む側がそのように解釈してくれる、だからそれなりに破格な書き方もした……というような。自分の言葉は誰に対して書かれているのだろうか。読み手という不確かなものの存在を掴み損ねているから、言葉のコロケーションや統辞法という普遍的な言語の法則を無難に意識するようになってしまうのではないか。ただ、その結果として、文章に面白みがなくなってしまっているような、正確な表現というものに気を取られ自分の表現というものを失くしてしまっているのではないか……思索は堂々巡りする。

 3連休の進捗としては、『ミイラ取り』は一応仕上げた。その他は牛歩。本は読もうという気持ちが空回りした。観たいと思っている映画も、観ずにまた1週間を過ごしてしまったな。

 余談だが日本酒を飲むために、わざわざ立派な陶芸家のぐい呑みを買ったんである。安い買い物ではなかったが、安物のお猪口で飲むよりはずっと風情があるだろうと思った。実際、酒はすすむ。刺身をつまみながら、2、3杯呑むのはなかなか乙だと思う。

なぜかガラル転生したコライドンだけど、イケメンなのですべて何とかなった 30話

 30

 

 ガブリアス鏡池の辺りにかがみ込むと、水面に首を突っ込んで豪快に水を飲み始めた。コライドンは気まずそうにソワソワと辺りを見回した。コライドンには見慣れないポケモンが異様な図体をしたドラゴンどもを遠目から物珍しげに眺めている。ニャースにはガラル地方特有の種がいて、いま自分たちを見物しているニャイキングというポケモンも、ガラル固有のニャースのみから進化する特別な種だということなど思いも及ばなかったので、見知らぬポケモンにジロジロ見られていると感じ、むず痒い気がした。
「テメエも飲んだらどうだ」
 あんだけ激しい運動したら喉もカラカラじゃねえか? ニンマリと笑みを浮かべて皮肉りながら、ガブリアスは爪で自分の隣の草地を指し示した。コライドンは躊躇したが、確かに喉は潤いを欲しているのだった。それに、さっきまでの自分たちの姿態が映像のように脳裏で再生されてきて、赤い顔がいっそう赤くなりそうであった。
「……」
 水辺に踞って両手で掬った水をごくごくと飲んだ。ひんやりとした水分が喉を癒やし、食道を伝って胃へと流れ込んでいく。もっと大きな器が欲しい、とコライドンは思った。興奮と羞恥で昂ってしまった肉体を内側から冷や水で満たしたくてたまらなかった。それには自分の手のひらでは到底足りず、いっそのことこの池もろとも飲み込んでしまいたい。
 満足するまで水を飲んだガブリアスは立ち上がって、水鏡に浮かぶ自分の体つきを悠然として眺めている。肘を曲げながら両腕を上げてポーズを取って、首筋から脚まで盛り上がる筋肉のシルエットをじっくりと観察しながら鼻歌らしきものを口遊んでいる。
「なあ、見ろよ」
出しぬけに、上半身をコライドンの方に捻って手首を交差させると前方の脚を軽く上げ、ふんすと鼻孔から威勢よく息を噴き出した。それから腕を締めて力を込めると、胸の筋肉がいっそうと盛り上がって岩のようだ。
「どうよ?」
 ガブリアスは自慢げに、ゴツゴツとしたその胸筋の稜線をピクピクと震わせて、嫌というほどに雄らしさを見せつけた。コライドンは答えに窮していたが、ガブリアスはニヤニヤとしながら鮮やかな橙色で強調された胸のガッチリとした膨らみを、これでもかと自慢してくる。その態度は勝手にコライドン相手に張り合っているかのように、無邪気でさえあった。
「まあ、悪くねえんじゃねえのか」
「おっ、マジ?」
 ガブリアスは嬉しそうに鼻息を噴射した。
「コライドン『兄貴』のお墨付きをもらえて嬉しいぜ」
 コライドンはおもむろに立ち上がって、ガブリアスと相対した。戯けたように「兄貴」呼びなどしてくるから、なんだか調子を狂わされてしまう。さっき、自分たちが好き勝手に雄同士の交尾をしたオンバーンプテラが、息も絶え絶えになりながら兄貴、兄貴、と自分を呼んだのが思い出された。それにしてもひどい状態のまま、ガブリアスに無理やり連れられるままにうっちゃってしまったが、どうにかおかしな騒ぎになっていないで欲しい、と勝手だとは思いながらもコライドンはソワソワしていた。
「何て顔してんだよ。いい顔がこれじゃ形無しになっちまうんじゃねえか?」
 ガブリアスはコライドンの顔をじっくりと見据え、ねっとりとした目線を送った。生暖かい鼻息が胸の逞しく発達したところにかかり、まるでくすぐられているみたいで、コライドンはついカラダをブルブルと震わせてしまう。
「まさか、ここまで付いてきてくれるとは俺も意外だったよ」
 不意に、ガブリアスがそんなことを言う。
「大方、あの野郎にキツく言われてたんだろうが、案外テメエも好奇心も性欲も旺盛ってこった。安心したよ、俺は」
「別にそういうことじゃ……」
「素直じゃねえなあ!」
 ガブリアスの爪が、コライドンの胸を優しく小突く。
「一つだけ確実なことを教えてやるよ」
「?……」
「俺と一緒にいた方が、あのクソ野郎といるよりうん億倍も得だってことだ!」
 ガブリアスがクソ野郎、というのはジャラランガのことを言っているに違いなかった。以前、キバ湖の瞳で暮らすオノノクスから打ち明けられたように、あの二匹はつい最近までは一緒につるんでいたそうだが、今はお互い険悪な仲になっていた。それにしても、いまコライドンに対するガブリアスの態度は、最初に出会った時と比べると随分印象が変わっているように感じられた。殺気だった空気感は最早なく、粗野なところはあるけれども、どこかわんぱくなところもあって、純真無垢な雰囲気さえあった。
「で、ここまで付いてきてくれてるってこたあ、俺と組む気になったってことか? そうなんだろ?」
「……」
「ったく、歯切れが悪いなあ。けど、ここまで来たからにはちゃんと付き合うとこまでは付き合ってもらうからな……」
「付き合う?」
「テメエもそんな立派なガタイしてんだから、わかる……だろ?」
 いきなりガブリアスはコライドンに顔を寄せて、ぺろ、と舌でひと舐めした。分厚く熱を持った舌がぺとりと粘着して、時間をかけて首筋から頬までを味わうように舐め上げたので、コライドンは竦み上がった。
「まだ俺はテメエのことをじっくり味わってねえから、な」
「……!」
「へっ、かわいいじゃねえか。コライドン?」
「変なこと言うのはやめてくれ」
「やめねえよ。だって、テメエは俺のもんだからな。そうであるべきなんだ……!」
 ジャラランガの奴が今ごろ派手なクシャミをするのが聞こえた気がした。
——んだよ、せっかくだから行ってこいよ。別に俺はお前の保護者じゃねえんだし。寝てえときに戻ってこいよ。せっかくの『異世界』だろ?
 と言うくせ、どこか名残惜しい調子だったジャラランガが今ごろ何を思っているのか、手に取るようにわかった。けれど、ここまで来たからには中途半端に後戻りをするわけにもいかなかった。何よりも、どうして自分がこんな見知らぬ土地に飛ばされてしまったのか、知ることが肝心なのだとコライドンは自分に言い聞かせた。
「それで、お前の住処はどこなんだ?」
「おっ、その気になったか?」
「付き合うだけ付き合ってはやるけど、その後のことは保証しない」
「ふうん……強気で来るんだな」
「何が言いたい」
「めっちゃタイプ。マジで唆られるぜ、そういうの!」
「……」
 ガブリアス鏡池からさらに先まで歩き出した。どうやら、住み着いているのはこの辺りではないらしい。ガブリアスが立ち止まってコライドンへと振り返ると、向こう側の方へ顎でとしゃくった。
「もうちょっと歩くんだ、付き合ってくれるよ、な?」
 コライドンは折り畳まれた羽根をそびやかしながら、意を決してガブリアスの後についた。

雑記240218

気分の落差が激しかった土日であった。細かくは言わないが、夕方にした約束を連絡もなしにすっぽかされてしまい、とても惨めな気分に陥った。最悪な気分で部屋にジッとしていていも寝るか酒を飲むかしかできない。とりあえず、フラフラと考えもなしに歩き、電車に乗って竹橋の国立近代美術館に行った。

 

特別展は中平卓馬であるが、これはまたの機会に(このところ写真家の展覧会が多い。安井仲治も東京展がそろそろ始まるし、木村伊兵衛牛腸茂雄もやるはずである、忘備録として)。コレクション展は夕方に入ると入館料が300円になってお得である。

 

4階、《行く春》や《騎龍観音》や《南風》など見慣れた館蔵品をまたもや観る。岸田劉生の《麗子像》に関する小特集。劉生が書いた麗子の素描の顔立ちがそこはかとなく有元利夫の描く人物像に似ていて面白かった(有元好きの友人に言ったら、やはり「ぽい」ということだ)。名取春仙と山村豊成の役者絵。隣は「アンティミテ」と題した一室。牛島憲之、牧野虎雄の色彩は好きだ。

 

原田直次郎《騎龍観音》(部分)

 

3階の戦争画の部屋では藤田嗣治の《血戦ガダルカナル》など。照明の関係で、近寄ると肝心の絵の中心部が白く光って見えにくいのが難儀である。コレクション展にはことあるごとに来ているが未だ《アッツ島玉砕》を観る機会はない。最奥の一室は芹沢銈介の特集をしていた。日本民藝館で売ったという手製のカレンダーが壁一面に展示されていて壮観。一角には芹沢の弟子で先日亡くなった柚木沙弥郎の染色もあった。日本画、洋画とは違う染色独特の深みある色も良い。そこまで観て閉館の10分前になった。

 

芹沢銈介のカレンダー

 

時間が押したので一つ一つはじっくり観られなかったが、今度中平卓馬展のついでにまた来るつもりで、2階は急ぎ足。昨年往生した野見山暁治の作品を観る。初めて直に拝見するが、観たことない類の抽象表現である。これは自然の抽象化か心象風景か、その混合とでもいうのか、短い時間観ただけではなんとも説明しようがない……中平展をやっている4月の初めまでにはまた観に来ようと思う。

 

何となく飯田橋まで歩いてから帰った。深夜、酒飲みながら友人にLINEを送り、自然と通話を始めていた。週明けから熱海で働くそうである。MOA美術館へ行くときにはお世話になります、それと、いい居酒屋も調べといてくれと頼んでおいた。1時間半ほど喋って、また別の知り合いと通話をし、朝まで。自分の憂鬱は憂鬱であるうちは犯罪に走りかねないほど深刻だと思い込んでいながら、結局は寝るか、飲酒するか、人と話すかすれば晴れてしまう。安いものである。

 

深酒したので、午後に目覚める。何となく中目黒の美術館へ行こうと思って、外に出て遅い昼飯を食うが既に4時を回ろうとしていたので、気が変わった。原宿に降りる。日曜の原宿は非常に混雑している。そして、とても歩く人に個性があって面白い。柴犬からトイプードルまで10匹以上のワンちゃんを散歩させている人、両足義足で歩く人、魔法少女のような格好をしたおじさん、たわしを犬のように繋いで引きずって歩いている人、みんな堂々としている。新宿や渋谷の雑踏とはどこか性格が違っていると思った。

 

竹下通り過ぎたあたりのとあるギャラリーを覗くことにしたのである。出品している作家から案内が来ていたのを思い出し、行ってみることにしたのである。ギャラリーを運営しているのは中国の人で、話を聞くと、日本国内の若手作家を中華圏のギャラリーや市場に売り出そうとしているそうである。

 

ギャラリーの一角には売約済みの絵がいくつも梱包されて壁に立てかけてあった。みな中国からの顧客という。今日なんかは10歳の子どもがプレゼントに絵を買って行ったなんてことも言っていた。近頃中国経済は低迷していると言われているが、金持ちが金持ちであることには変わりない。住宅や自動車、一通りの家財を買い揃えた中国の富裕層はアートに手を伸ばすんだという。そういう買い手やコレクターが作品を買うことで作家を支え、制作を続ける糧とする。確かに羨ましい好循環と言える。これからはアメリカだけでなく、中国などアジアの市場にも日本のアートを発信するような動きも本格化してくるのだろうと思った。

 

上野裕二郎《団龍/Swirling Dragon》

 

この龍の絵は面白かった。琳派的な華やかさと、ポップアートの派手さと野獣派を彷彿とさせる筆のタッチで現代的な龍図だ。色彩と輪郭が溶け合って調和している印象が、明確な形をとらない東洋的な「気」の表現になっているし、全体像を描かない伝統的な龍の図像にも連なっている。それに何より、一目見てカッコがいい。日本でも中国でも買い手が後を絶たないそうで、1年半ほどは注文が埋まっているそうだ。

 

瀬戸優のテラコッタ彫刻 こっちを見てくるぞ!

 

その隣に置かれていたテラコッタのみみずくの彫刻も印象的だった。凛とした佇まいも魅力的だが、象嵌された瞳はどの角度から見ても目が合うように作られていて驚いた。リアルに描くだけではなく、作家の美意識を動物に反映させているとギャラリーの主人は話していたが、確かにその通りだと思う。思いつきで尋ねたが、いいギャラリーを見つけた。定期的に足を運ぼうと思う。

 

表参道の駅までつくのに距離のわりに時間がかかった。本当に原宿は人が多い。買い出しして、家に帰り某サークルの集まりに参加。あとは飯を食い、自重をして、明日には返さねばならないシュオッブの翻訳を読み、これを書き、酒を飲まんとする。

 

小説の進捗。あまり良くない。筋と関わりのない描写をする段になると、急に言い回しや比喩に自信がなくなって、筆が止まりがちになってしまう。無用なことを必要以上に描写してしまうきらいがあるかもしれない。