なぜかガラル転生したコライドンだけど、イケメンなのですべて何とかなった 32話

深夜あたりに久々に26話〜32話をpixivに更新する予定です。前回からジャスト1年経ってしまった……

 

 32

 

 こんなことしてる場合じゃないってのに、と頭では思っているのに、コライドンの手はガブリアスの胸をガッチリと掴んでしまっている。あまつさえ、爪先をゆっくりと動かして揉みしだいてしまうのだ。ちょうどオンバーンがコライドンの胸を惚れ惚れしながら揉んできたように、コライドンもガブリアスの恵まれた野生的なガタイに言いようもなく惹かれてしまっていた。
「いいぜ、好きなだけ触りな……」
 まるでいつも大きく息を吸ってでもいるかのようにパンパンに膨れ上がった胸筋は、微細な鱗に覆われているので、表面をこんがりと焼いたパンのような触り心地なのに、そのくせ雲のように柔らかく、知らず知らずのうちにコライドンの手先は同じ動作を繰り返してしまう。
ガブリアスは空いた手で峻厳な力こぶを作りながらポーズをし、捻れた筋肉が収斂する腋をチラリと見せつけてくる。恥じらう気持ちとは裏腹に、カラダは少しずつ昂ぶっているのだからたまらない。鍛えられた雄胸をゆっくりとした手つきで揉みしだいていくと、奴の橙色の鱗がいっそうと血色付いて、日も暮れたというのに朝日のように眩く見えた。
 何が自分をそうさせているのか、コライドンはわからなかった。わかっているのかもしれないが、それからは目を背けていた。脳裏にはジャラランガの渋い顔が浮かぶ。あんまし帰りが遅くなってもいけないよな、と真面目に考えているつもりでいながら、そのくせ全然そうでもないのだった。捏ねるように指先を動かして、それに合わせて柔軟に形を変えるガブリアスの胸の感触を味わっているのは他ならぬコライドン自身なのだから。
 もっと弄り回してくれよ、とばかりにガブリアスは胸を張り、筋肉の塊をコライドンの手のひらに押し付けてくる。コライドンはどぎまぎしながら、あくまでも興奮していることを顔に出さないように、真剣そのものな顔つきでいる。あたかも、これは前戯などではなく、陶器の形を整えるための大事な作業なのだ、とでも言うように。ガブリアスはそんな彼を微笑ましく眺めながら、時折敏感なところに触れられると、大袈裟に上体を震わせた。
「どうだよ?」
「……」
「強つくばりだな、テメエも。こんなに俺の『雄っぱい』が大好きなくせによ」
 何と答えればいいのか、コライドンはわからなかった。言い返そうにも、自分がガブリアスの胸を案外熱心に触って、しかも満更でもないということ自体が、どんな言い訳も封じてしまっていた。確かに、いい形をしていた。そんな爪をしていたら腕立て伏せもろくにできないだろうし、重いものだって持ち上げることもできないだろうに、よくもこんな筋骨隆々に鍛えることができたものだと真面目に感心などしている。いや、俺は一体何てこと考えてるんだ、と考え直したところで自分さえ納得させることはできなかった。
「クソ最高だぜ。テメエも俺と同じだったなんてなあ……」
「同じ?」
「今さら惚けんなよ!」
 コライドンのこめかみに鼻先を押し当てながら、ガブリアスは囁く。りゅうのいぶきのような熱い吐息がコライドンの羽根を揺り動かした。
「いいか? テメエみてえな雄はな、俺ともっとエロいことしなきゃいけねえぜ」
 頭上の羽根を総毛立たせたコライドンに向かって、ガブリアスはニッと牙を見せつけて不敵に笑う。
「何、戸惑ってんだよ? テメエも実はよくわかってるくせに。ウジウジしてるけど、ぶっちゃけ俺とヤリたいんだろ?」
「……」
「ふうん、いつまでもテメエが口ごもってんならじゃあ俺の方から言ってやろうか? 一晩相手してやったら、テメエが知りてえことも教えてやるよ、ついでにな」
「あっ……!」
「ったく、テメエはもっと自分に自信を持った方がいいぜ。特にこんな弱肉強食なワイルドエリアじゃあな!」
 それに少なくとも、俺はあのジャラジャラした野郎よりは馬鹿じゃねえからな。と自信満々に、全ての筋肉を強調しながらガブリアスは言い切る。
「とはいえ、ちっ! 揉まれるだけじゃ全然物足んねえぜぇ……!」
 無理やりガブリアスに顔を胸元へ引き寄せられると、彫りの深い胸の輪郭が視界いっぱいに映り込んでくる。盛り上がった胸筋の麓には濃い影が差して、太いペンで弓なりの曲線を書いたような輪郭が胸と腹の境目をくっきりと分けていた。まるで急峻な土地のジオラマを間近でまじまじと見ている感じだった。
 言われるがままに、深く切り立った谷間に恐る恐る顔を埋めると、漲ってツヤツヤとした鱗が鼻先にピタッと触れる。力強い胸の鼓動がコライドンの顔をドク、ドクと震わせる。マズルで左右にこじ開けられた胸筋がいま一度反発して、コライドンの顔を挟み込む。思いのほか締め付けが強いのにコライドンはビックリし、水面であたふたしてうっかり水を飲み込んでしまうように、ますます強くなる雄々しい臭いを勢いよく吸ってしまう。
「いいぜ。じゃ、今度は俺の『雄っぱい』吸ってくれな?」
 鳩尾の臭いをひとしきり嗅いだ後、コライドンは頭がいっぱいになったかのように何かを筋道立てて考えるのに困難を感じながら、胸の谷間から顔を離し、ふう、と息継ぎをしたら、今度はガブリアスの胸の一番膨らんだところに口を押し付けた。軽く口先を窄めて空気を取り込もうとするだけで、ガブリアスの胸がぴったりと口に吸い付いた。鱗の口当たりはユキハミのようにモチモチとしていて、口を遠ざけようとしてみると、しばらく一緒にひっついてくる。それが何だか面白くて、コライドンは何度か——自分のやっていることのおかしさと馬鹿馬鹿しさを重々理解しはしながらも——繰り返した。
 なぜだか、初めてしたという気がしなかった。遠い、いつのことだかもわからない記憶が、電気回路が繋がった一瞬の輝きのように、脳裏に像を結んだ。
——今のお前、最高に無様で哀れで可愛いよ。
 けれどもそれがコライドン自身が経験した過去の記憶であるのか、いつか見たやけに明瞭な夢の断片であるのかを、確信することはできなかった。コライドンは熱心にガブリアスの右胸への接吻を繰り返す。ちゅうちゅうと、子供っぽい音を立てながら胸を吸い、それから二股の舌を伸ばした。ぎこちなく上下左右に動かしながら逞しすぎる胸を愛撫する。
「ふぅ……コライドンに雄っぱい舐められんの、たまんねえよマジでえっ!」
 舌の筋肉に痛みを感じて、胸から顔を離そうとしたが、間髪入れずガブリアスの腕がコライドンを抱え込んで、次は反対の胸にぎゅうと押しつけられる。
「むかし、カロスってとこを旅してた時だけどよ」
 言い忘れてたが、トレーナーに付き従ってた時にな、と妙に率直にガブリアスは話す。
「なんかでっけえ城の広い庭に、立派なポケモンの彫刻があったんだ。名前何つったっけ……とにかく、体つきがエロかったってのは覚えてる。ああいう雄と好き放題ヤッてみてえよって妄想したんだよなあ……けど、今のテメエはそれ以上だよ、ガチで!」
 これだけでは到底済みそうではない、と流石のコライドンも悟っていた。ガラルによく分からず飛ばされて、ジャラランガの奴に介抱されてからの日々がたった一晩でひっくり返ろうとしているのを、その屈強で張り詰めた肉体をもってしても、どうすることはできそうになかった。ただ、パルデアへ帰るための「鍵」をガブリアスが人質として持っている、ということだけが頼りだった。けれど、それは何に対して「仕方がなかった」と言うためだろう? それは、当然——とはいえ、ガブリアスの雄の臭いはそんなことを冷静に考えることだって許してくれないのだった。コライドンはガブリアスの胸を口先で、舌先で感じさせ続けていた。