PKMN×PKMN小説を求めて(9/?)附:『こんなのでよければ』

 「ポケモンラブホテル」スレと「エーフィとブラッキーがあなたのお話聞くよ!」スレ、この両者のスレ住民の間の相互交流によって、20年前にポケモン小説の発生する磁場が生まれた、ということを前回書いた。
 繰り返し強調するが、いわゆるポケモン小説、とりわけポケモン同士の性愛をテーマにした小説の投稿が盛んになっていくのは『ポケダン』シリーズがヒットした2000年代後半以降のことだから、いかに「ラブホ」スレのSS群が特殊な位置付けにあるかがわかるかと思う。加えて、同時進行していたなりきりスレのキャラクターを登場させる形で最古の小説は、黎明期の2ch(現5ch)の孕んでいた独特のネット文化の産物であることも見逃せない。
 さて、前回の『ポケモンラブホ物語(笑)』の投稿に触発されて、同スレでは続々とSSが投稿されていくことになるのだが、スレタイに則り、架空の「ポケモンラブホテル」を舞台とした作品がしばらく投稿される。
 まずは、『ラブホ物語(笑)』の投稿から2日後の2001年3月8日から9日にかけて、『こんなのでよければ』というタイトルで4回に分けてSSが投稿される。カップリングはブースター♀×イーブイ♂。いわゆる、おねショタ、女性優位の要素の強い作品である。短い作品なので、こちらも全文を掲載させていただこうか。例によって、一部作者によるコメントはカットし、各回の冒頭に数字を付してある。

 

1

柔らかい土の上に、激しい音を残しながら降り注ぐ雨。
こんな日に客が来ることなど滅多にない。
「今日は仕事にならないな…」
一人さびしくカクテルでも作るか…。
そう思って立ち上がった支配人の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
客だ。
比較的小さなシルエットの二人…いや、二匹と言うべきか。
一匹は、目にも鮮やかなオレンジ色の体毛を、雨に逆らうように燃え立たせているブースター。
そしてもう一匹は…
「ちょ、ちょっとそれはまずいですよ。お客さん…」
「何がまずいのよ。ここは誰だって泊めてくれるんでしょう?」
「いえね、うちはレベル15未満のポケモンは禁止なんですよ…。
そのイーブイ、どう見たってまだレベル10そこそこじゃないですか…。」
一瞬、母親ですかと聞きそうになって、支配人はその言葉を飲み込んだ。
そう見るには、そのブースターは若すぎた。
「すいませんが…、お引取り願えないでしょうかね…。」
おそらくこの店が何の店なのか分かってないのだろう。
そう判断した支配人は、なるべく穏便にすませようと穏やかに話し掛けた。しかし…
「そんな!この大雨の中を、炎ポケモンの私とこの子とでまたさまよい歩けって言うんですか?
やっと、やっと休めるところを見つけたと思ったのに…」
そう言われると、もはや断りようもなかった。
実際、ブースターの横でびっしょりと濡れて一言もしゃべらないイーブイの様子も心配だった。
このまま外に放り出すのは危険だ。
仕方がなく支配人は、キーを差し出した。
「どうぞ。3階に上がって、つきあたりの部屋です。でも…、くれぐれも、お願いしますよ…。」

 

2

カチャッ。
「ほうら、楽勝だったでしょ?」
部屋に入り、内側からキーロックをかけながらブースターが言った。
「うんっ!ブースターさんってすごいねっ!」
無邪気に肯くイーブイ
「ありがとう、ブースターさん。だって、ボク一人じゃあこんなとこ絶対入れないし…、
あのままじゃあボク、凍え死んでたかも…。」
そう、森の中、激しい雨に打たれてぐったりしているイーブイを見つけたブースターは、
なんとか休ませるところを見つけようと、このラブホテルにやって来たのだった。

雨に濡れ、まだ蒼ざめた顔で震えているイーブイを、突然ブースターが抱え込むように抱きしめた。
「わっ!、ブ、ブースターさんっ!何するんですか!?」
「黙って…、じっとしてて。」
思わず振り解こうとするイーブイを優しくなだめると、ブースターは全身の炎を一瞬燃え上がらせた。
じゅわぁぁっ……!
火傷しないように微妙に調節された熱で、イーブイの全身を濡らしていた雨水が白い蒸気と化してゆく。
体の芯から暖まってくるようなそのぬくもりの中で、
イーブイは今までに感じたことのないような安心感を感じ取っていた…。
「はぁっ……」
思わず吐息が口から漏れる。
「ブースターさん…、あったかい…」
「そう、良かった。…だいぶ元気になったみたいね。」
ほのかな暖かさを残しながら、ブースターが身を離す。
くすっという笑いの混じったその口調に、はっと我に返ったイーブイは、笑われた理由を知って
暖かさで火照っていた顔を更に赤らめた。
ブースターの視線は、イーブイの腰に向けられていたのだ。

 

3

「私、そんなつもりでキミをこんなとこに連れ込んだわけじゃないんだけどな」
からかい気味に、しかしどことなく誘惑するような笑みを浮かべながら、言うブースター。
イーブイは、申し訳ないやら恥ずかしいやらで、何がなんだか分からなくなってしまった。
「ごっ、ごめんなさいっ!ボ、ボク、そんなつもりじゃぁ……。
それにボク、こんなとこ初めてだから、その、緊張しちゃって…、あの…。」
「ふふっ。可愛いのね。私がイーブイだった頃のことを思い出しちゃうわ。」
小さな身をさらに縮め、耳をしなっとねかせながら必死であやまるイーブイを見ながら、
ブースターはいとおしい気持ちでいっぱいになってきた。

「あ、あの、でもボク、可愛いって言われるより、かっこいいって言われたいんです!
ブースターさんみたいな、かっこいいポケモンに……っ!?」
その後の言葉は続けることができなかった。
言葉をつむぎだすその唇が、ブースターの唇で塞がれてしまったから…。
くむっ、んっ、んんっ…
「かっこいいポケモンになりたいんだったら、女の扱いくらいはちゃんとできないと、ね?」
長いキスの後、さっきと同じような笑いのこもった声でそう言うと、
ブースターは、まだ目を白黒させているイーブイをベッドに押し倒した。

そっと耳を舌でなめてやると、びくっとしてイーブイは目を閉じる。
しかし、その体はがちがちで、まるで祭壇で時を待つ生贄のような表情だ。
(そんなに緊張しなくってもいいのに…)
まるで自分がひどく悪いことをしているかのような、背徳感が湧き上がってくる。
ブースターは、イーブイの首にふさふさと生えた幼毛の一本一本まで丁寧になめてあげながら、
再び体温を少しだけ上げてやった。
「あ…、あ…、あんっ…」
体をぽかぽかと暖められ、体を丹念になめられて、イーブイの体の筋肉が目に見えて柔らいでいく。
次第に声も漏れるようになっていた。

 

4

十分に緊張がほぐれたのを感じ取ると、ブースターは段々とその口を下の方へと移動させていった。
そして……。
ぺちゃっ。
「あっ、うわぁっ、あ、あ…。」
ブースターの舌が肝心の場所に触れた、その瞬間、イーブイは……。

「ご、ごめんなさいっ!」
なんだかあやまらなくちゃいけないような気がして、あわててそう言うと、
ブースターはまた、ふふっとあの微笑を浮かべながら見つめ返してきた。
「あやまることなんかないわ。まだ朝まで時間はたっぷりあるんだし…。ね?」


「じゃあ、ここでお別れね。」
昨夜の嵐がうそのような、青空の下。
ホテルを出てすぐ、別れを告げるブースターに、イーブイは不思議と寂しさは感じなかった。
「ボクが…、ボクが今よりずっとかっこよくなって、強くなって、またどこかで会うことができたら、
その時は…、また…」
「ええ。キミがどんなポケモンに進化することになるのか、それは分からないけど…。
成長したキミの姿、見るのを楽しみにしてるわよ。」
すっと顔を近づけ、頬にぬくもりを残して去っていったブースターの姿を見送りながら、
イーブイは少し大人に近づけたような気がしていた。

 

(出典:「ポケモンラブホテル[R-15]」レス番号91、105〜107 https://game.5ch.net/test/read.cgi/poke/983717029


 弱っていたイーブイを拾ったブースターが雨宿りのために駆け込んだラブホテルでの一夜を綴った掌編であるが、こちらも前述のブイズなりきりスレの登場キャラを出演させた三次創作SSとなっている。投稿前には次の小説を何にするかを巡って、このようなレスが交わされている。


86 :名無しさん、君に決めた!:2001/03/08(木) 17:04
ブースター×イーブイ書いてもいいけど・・・
ブースターに燃やされそうだな。

87 :名無しさん、君に決めた!:2001/03/08(木) 20:34
>>86
ブースターが気付かないうちにこっそりと!

88 :ギコチュウ♂:2001/03/08(木) 21:00
え?ブースター×イーブイなの?
イーブイ×ブースターじゃないの?

89 :ブースター:2001/03/08(木) 21:09
>>86-88
あ、何企んでるの?
このスレッドは警戒が必要のようですね。
ふふふふふ・・・。


 スレ番号88の「ギコチュウ♂」氏は「ラブホ」スレ、「エーフィ」スレ双方に出入りしていたコテハンの住人で、「FEEL」氏などと並び初期の「ラブホ」スレの流れを主導した人物の一人(この「FEEL」という人物についても後述したい)。
 「89」のブースターは「エーフィ」スレに登場するブイズキャラの一体で、同スレには3月3日のスレ番号225で初登場している。初出から5日で別スレでSSが書かれていることから、いかに2つのスレ同士の繋がりが強かったかが窺える。また、相手役となるイーブイも同じ3月3日のスレ番号240に現れている。作中で、「どう見たってまだレベル10そこそこ」と言われているのも、スレでの設定に準じたものだ(「エーフィ」スレ番号382参照)。
 ラブホテルを舞台としながらも官能描写は仄めかす程度で、ブースターとイーブイとのプラトニックな年の差関係が描写され、スレの方向性に対しては意外性のある作品である。作者自身もそうした描写をあえてソフトにしたとレスしている(レス番号103、112参照)が、この両匹の関係性は「エーフィ」スレにおいて、ブースターが「実はショタ(群々注:ショタコンの脱字か)で、イーブイ萌え」である(「エーフィ」スレ番号386)という揶揄いのレスが発端となって書かれており、前回の「ラブホ物語(笑)」と同様の成り立ち方をしている。
 SS自体に対しては、もう少し性描写が欲しいという意見がいくつか見られるものの、スレ内での評価は良好であり、2作目が投じられた「ラブホテル」スレは一層の盛り上がりを見せることとなる。

 

119 :FEEL:2001/03/10(土) 02:22
貴方だけではありません、私もです(笑
さ~て次回のポケモンは?ピッピカチュウ

 

 「FEEL」氏のこのレスが端的に表現しているように、この『ブースター♀×イーブイ♂』が投稿されたことで、スレ全体に次なるSSを期待するムードが高まっていくのだが、ここからガラパゴス的な発展を遂げていく「ラブホテル」スレをさらに見ていくことにしよう——

 

出典:「ポケモンラブホテル[R-15]」
http://game.5ch.net/test/read.cgi/poke/983717029/
   「エーフィとブラッキーがあなたのお話聞くよ!」
https://salad.5ch.net/test/read.cgi?bbs=poke&key=983453494&ls=50