PKMN×PKMN小説を求めて(10/?)附:『無題』(ワタシノカワイイネイティチャン?)

 ここまで紹介した2作は、いずれも同時進行していた「エーフィスレ」のレスと連動する形で書かれたものであった。ポケモンファンの間でのブイズ人気というのは(この当時はまだリーフィア、グレイシア、ニンフィアは存在していないが)、20年前も変わらないということがおわかりいただけるだろう。
 余談だが、「エーフィスレ」のようななりきりスレは当時からコンセプトを変えながら展開を続けており、同スレの前には「オレ、サトシ!何でも聞いてくれよ!」というスレが2001年1月14日から3月4日まで稼働しており、実質的に「エーフィスレ」の前スレとなっている。ちなみに、続きのスレは「イーブイとロコンがなんでも答えるよ!」であるが、こちらは同年の10月にレスが800を超えたところでdat落ちしている。
 こうしたスレが原型となって2002年ごろに「ポケモン獣姦エッチチャット」なるスレが登場し、なりチャとポケモンエロ小説が融合した独特のスタイルが生まれ、pixivやtwitterといったSNSに存在するなりきりアカウントに引き継がれて現在に至ると考えられるが、その辺りは別途検証が必要と思うので、これ以上深くは言及しない。
 「ポケモンラブホテル」へと話題を戻す。ブイズを主役にしたSSが好評だったスレの流れを受けて、続々と新たな書き手によるスレへの投稿が活発化していくのだが、小説の書き手のサガとしては、これまで書かれてきたものとは異なる作風を送り出したくなるものである。さらに、そうした作品は往々にして、単なるポケモンという対象への「萌え」の発露に留まらない要素を含んでもいる。名無しの投稿者によって3月11日から12日にかけて投下された次の作品は、そうした書き手の個性の表現が、ポケモン小説という形で現れていて興味深い。繰り返しになるが、これは20年前に書かれたSSである。

 


1

その日は激しい雨が降り注いでいた。
私はどこかに雨宿りできる場所はないかとジョウトを奔走していた。
・・・奔走、とは言っても翼でだが。
「まだアルフの遺跡から離れないほうが良かったですかね…」
私はずぶぬれになった翼を一振りして、滴る水滴を吹き飛ばした。
正面に見えるのは異質なピンクの輝きを放つホテル。
そこがどんな場所であるか知らないわけではない。だが、この大雨の中に
いつまでも留まっていては体力的にも限界は近いことは陽の目を見るより明らかだ。
「…仕方ありませんかね。」
今日は居ない、いつかの温もりだけを隣に覚えて
私はエントランスへ入った。

 

2

「キーをどうぞ。…今日はお一人ですか?」
「…聞かないでください。」
私は足早に鍵を借りて部屋へと急いだ。外はいつのまにかひどい雷雨になっていた。
今は何よりもこの濡れた体を熱いお湯で流してしまいたかった。ひどく気だるかった。
そうでないと、あの夜の出来事を思い出してしまいそうで怖かった…。
……薄暗い部屋に入り、照明をつける。
私の後ろには誰も居ない。いない…はずだ。
だが、私の肩に感じるこの質量は。この誰かの温もりは。気持ち悪い。
ネイティオさん…ですか……。」
発狂しそうだった。何度も自分に言い聞かせた。居ないはずだ。
私は一人だ。今は一人。そう、もう昔のことは思い出したくない。    吐きそうだ

 

3

彼女が私の股間を舐めている。なんて甘美な光景だ。
あの夜も今夜と同じようにひどい雨だった。ずぶ濡れで私は歩いた。
先刻戦ったトレーナー戦で痛手を負ってしまった。致命傷だろう。
その攻撃は私の翼をゴミ同然にした。しばらくは飛べない。
そこへあの女が現れた。ネイティオ
雨の中、てらてらと光る眼球が妖しかった。私はなすがままに彼女の後をついて行った。
どうして私を助ける気になったのか。それは大した疑念ではない。
今はただ、この女についていけば私は助かるのだと思った。彼女は建物へ入っていった。
中で薄暗い部屋に案内された。私は濡れた体もそのままにベッドに倒れこんだ。
身体が妙に重い気がした。濡れているから?…違った。目を開けるとそこには
私にのしかかる体勢で彼女が覆い被さっていた。わけがわからなかった。
すぐにわかったのは、これから何をされるかだけだった。
経験も無い私は彼女のリードで事を進めていった。…下半身が苦しい。
それは今まで体験したことの無い、素晴らしい感覚。
それは今まで思いもよらなかった、気持ちイイ感触。
すぐにイってしまった。気恥ずかしかった。

 

4

コトを終えた後、私は深い眠りについた。母の夢を見た。
私は母の腕に抱かれていた。いつも彼女は綺麗なペンダントをしていた。
私は母に抱かれながらその綺麗な輝きを見つめるのが好きだった。
私は母が気狂いになるまで離れたことは一度も無かった。
ザコンだったのだろうか。いつも隣には母がいて、いつも私は彼女の手を握っていた。
でも、ある日捨てられた。父に見放されるほどの淫乱女。信じがたい光景。
家に戻ると母はやけに小奇麗なドーブルと行為をしていた。喘ぎ声が耳から未だに離れていない。
・・・私はすぐに家を出た。
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目が覚めた。思い出してしまった。母としたあの夜を。
母の身体がぺたっと粘着質に張り付いた夜。母の顔など覚えていなかった。
思い出したくもなかった。でもあの女は私に近づいた。私も変わった。
昔の面影は無い。自分で言うのもなんだが、若い身体に引き締まった顔つきからは
息子を思い出す要素は何一つ見出せなかったのだろう。
彼女がシャワーを浴びているときにあのペンダントを見つけなければ
知らずに済んだのに。 『ワタシワハハトヤッテシマッタ』 何度も心の中で反芻した。

気付いたときには殺していた。もうこのホテルにも来まいと思っていた。
でも、私は今宵、また戻ってきてしまった。・・・隣に彼女を連れて。
≪ワタシノカワイイネイティチャン?ワタシノチカクニハヤクキテ?ワタシノカワイイネイティチャン?ハヤクワタシトマジワッテ?ワタシノネイティ...ハヤクコッチニコイ!!!≫

 

(出典:「ポケモンラブホテル[R-15]」レス番号126、131、134、137 https://game.5ch.net/test/read.cgi/poke/983717029

 


 掌編ながら、巧妙に時間が入り組んだ物語である。傷ついたネイティオは雨を避けるために偶然見かけたポケモンラブホテルに「一匹」でチェックインする。しかし、何かの存在を感じ取った彼は、ここがかつて訪れたことのあるホテルそのものであることに気付き、思い出したくなかった記憶を蘇らせてしまう。彼は発狂した母親から逃げ出したネイティオであり、ある時自分に近づいたメスのネイティオとこのラブホテルで一夜を共にしたのだが、彼女がシャワーを浴びている際に見つけたペンダントによって、行為をした相手が自分の母親であることを知ってしまい、衝動のままに彼女を殺してしまったのである。偶然にも、そのホテルへと戻ってきてしまった彼を待ち受けていたのは、金切り声を上げる母親の亡霊であった。
 以上のように、エロ要素よりも近親相姦が絡んだゴシックホラー的な展開が強調された物語であり、投稿直後には賛否両論のレスが多く見られる。最初の反応が「萌えねーよ。氏ねや。」(スレ番号127)であることも、このSSがスレが本来企図した小説とは大きく異なるものであったことを示している。しかしながら、「ラブホテルスレ」の中心的存在であった「FEEL」氏はこのように反応する。

 


133 :FEEL:2001/03/11(日) 21:03
>>127
ラブホ「物語」ですから作者の方は物語性を重視しているのですよ。
どうやら書こうと思った方が自由に投稿する形式になっているので
是非貴方も萌えまくる物語を書いてみてくださいね、

 


 ここで「ラブホ」ではなく「物語」に鉤括弧をつけた「FEEL」氏の意見は重要である。性的な連想を喚起させる「ラブホテル」という舞台設定ながらも、そこで期待される性行為ではなく、むしろそこから自由に広げられる物語を重視しても構わないというスタンスこそ、「ポケモンラブホテル」スレを先駆的な小説スレへと発展させた理念であろう。スレ住民の多くも「FEEL」氏の意見に同調しており、難解で賛否の分かれるテーマと作風ながらも、不気味な余韻を残すこのSSは、さほどスレが荒れることもなくすんなりと受け入れられたのである。
 スレへの投稿3作目にして、ポケモンラブホ物語はラブホテルを物語の中心に据えてはいるが、かなり自由な創作が行われている。「FEEL」氏や「ギコチュウ♂」氏をはじめとしたスレ住人たちの寛容な態度も、作者たちに自由な書き方をするようにと背中を押してくれている。
 ポケモン小説を発表する場としては、非常に好ましい環境が20年前の2chに整い始めたのだ。

 

出典:「ポケモンラブホテル[R-15]」
http://game.5ch.net/test/read.cgi/poke/983717029/